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東京の「ナイトタイムエコノミー」は誰のためのものか

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TokyoScopeMedia 編集部 Editorial Desk

TL;DR

  • 「ナイトタイムエコノミー」は深夜営業の拡大ではなく、夕方から夜にかけての時間をどう設計するかという都市政策の話である。
  • 観光庁や業界団体が後押ししてきた一方、住民の生活時間や騒音との折り合いが恒常的な課題として残る。
  • 渋谷・六本木のような繁華街と、住宅に近い商店街では、求められる「夜」の質がまるで違う。
  • 鍵を握るのは公共交通の終電時刻と、夜間の移動コストをどこまで下げられるかという足元の条件だ。

夜の経済を語るとき、私たちはしばしば話を大きくしすぎる。ところが実際に東京の夜を動かしているのは、終電が何時に出るか、タクシーがつかまるか、その程度の地味な条件である。深夜まで店を開けても、客が帰る手段を失うのなら、にぎわいは長続きしない。ナイトタイムエコノミーという言葉の輪郭は、案外この一点に収れんしていく。

そもそも何を指す言葉なのか

観光庁は夜間の観光や消費を地域の経済資源として位置づける施策を進めてきた。一般社団法人ナイトタイムエコノミー推進協議会の整理によれば、対象は飲食や娯楽にとどまらず、美術館の夜間開館や公園の活用まで含む幅広い概念だという。つまり「夜更かしの推奨」ではなく、夕方以降の時間帯に都市の選択肢を増やすという発想に近い。

もっとも、ここには見落とされがちな前提がある。夜の活動が増えれば、その分だけ働く人の労働時間も後ろにずれる。消費の側だけを明るく描くと、供給を支える人の生活が視界から外れてしまう。

繁華街と住宅地では「夜」が違う

渋谷や六本木のように、もともと夜が主戦場だった街と、住宅地に隣接する商店街とでは、求められるものが正反対になる。前者は深夜帯の集客をどう伸ばすかが論点になるが、後者では夜八時を過ぎた静けさそのものが価値である。東洋経済オンラインなどの報道でも、再開発エリアの「夜のにぎわい」と周辺住民の生活との摩擦は繰り返し取り上げられてきた。

裏を返せば、東京という都市を一括りにして「夜の経済を伸ばす」と論じること自体に無理がある。地区ごとに時計の進み方が違うのだ。

足元の条件としての交通

夜の消費を実際に左右するのは、華やかな施策よりも交通の設計である。終電が早ければ、人は逆算して早めに切り上げる。国土交通省が公共交通のあり方を継続的に検討してきたのも、移動手段が都市活動の土台だからだ。深夜バスやライドシェアの議論が折に触れて再燃するのも、この土台が揺らいでいるからにほかならない。

一方で、移動を便利にしすぎれば、今度は近隣の静けさが削られる。夜を活性化する政策と、夜を守る政策は、しばしば同じ路上でぶつかる。

誰のための夜なのか

結局のところ、ナイトタイムエコノミーという言葉が問うているのは「夜を誰のものにするか」という配分の問題である。観光客の消費を増やすのか、住民の暮らしやすさを優先するのか、夜働く人の負担をどう分けるのか。どれも正解が一つに定まらない。東京の夜は、にぎわいの総量で測れるほど単純ではなく、時間と場所をめぐる調整の連続として立ち現れる。明るくすればよいという話ではないのだと、終電間際のホームに立つたびに思う。関連して、立ち飲み文化の再評価も、この「夜の質」をめぐる議論の延長線上にある。

参考・出典

  • 観光庁「夜間の観光・消費に関する施策資料」
  • 一般社団法人ナイトタイムエコノミー推進協議会 公表資料
  • 国土交通省 公共交通政策に関する各種検討資料
  • 東洋経済オンライン 再開発と地域に関する各報道